ところでハムレットは、すでに述べたような憂鬱な状態に陥る前に、オフィーリアという美しい乙女を深く愛していた。オフィーリアは、国王の主席顧問として国政を預かるポローニアスの娘であった。ハムレットはオフィーリアにたびたび手紙や指輪を贈り、かつ愛の告白も重ねて行い、まじめに愛を訴えてきた。オフィーリアの方でもハムレットの誓いや願いを信頼するようになっていた。だが、最近陥った憂鬱な感情のために、ハムレットはオフィーリアを無視するようになってしまった。しかも、発狂したと見せかけようと考えてからは、わざと彼女に冷たく、むごいと言っていいほどの振る舞いを見せるようになった。しかしオフィーリアは、善良な乙女であったから、ハムレットが冷たくなったのを責めたりはしなかった。自分につらく当たるようになったのは、すべて心の病からであって本心からのことではないと信じていた。そして彼女は、今まで見てきたハムレットの気高い心や優れた理解力を、たしかに彼自身が深い憂鬱に落ち込んでいるために損なわれてはいるが、とても素晴らしい音を奏でる鐘そのものだ、ただ、調子外れに振ったり、手荒く扱ったりすれば、耳障りで不愉快な音しか出せない、そういう鐘に喩えていた。
ハムレットが企てている手荒な仕事(父の殺害者に復讐すること)には、求婚のような戯れ事はそぐわないものであるし、恋愛などという(ハムレットにとっては)無駄な感情を抱く仲間には全く入る気はなかったものの、それでもなお、彼のオフィーリアに対して、甘く優しい感情がわき起こるのを禁じ得なかった。そして、時々は自分の振る舞いはあの優しい女性に対してあまりにもむごいものであったなどと思い返し、狂おしいまでに情熱的な言葉をこれでもかとたっぷり使った手紙をオフィーリアに出すこともあった。このような行為は、ハムレットが演じているような狂気にふさわしいものではあったが、やはりある程度は愛情に根ざしたものでもあった。そう、心の奥に今もあの気高き乙女に対し深い愛情を抱いていることを、彼女に見せない訳にはいかなかったのだ。彼はオフィーリアにこんなことを言った。星が火であること、太陽が動くこと、真実が嘘つきであること、たとえこれらを疑ったとしても、自分が愛していることを疑ってはいけない。そのほかにも、このような大げさな言葉をふんだんに手紙に使っていた。ハムレットが出した手紙をオフィーリアは忠実にも父に見せた。そして、老臣は現王夫妻にそのことを伝える義務があると考えたから、そのようにした。それを聞いた二人は、ハムレットがあのように狂ってしまったのは恋の病からだと考えた。そして王妃は、オフィーリアの美貌こそがハムレットを狂わせてしまったのが不幸中の幸いであって欲しいと願っていた。というのも、もしそういうことであれば、やがてその美徳によって、ハムレットが狂気から回復し、前のような息子に戻り、祝福されるカップルになるに違いないと思ったからである。
しかしながら、ハムレットの病は王妃が考えているよりも根深いものであったから、そんなことで治るようなものではなかった。ハムレットが目撃した父の亡霊は、その視界の中にいまだ姿を現していた。そして、殺人犯に対する復讐を絶対にやり遂げるよう常にハムレットに命令し続け、彼に休む間を与えなかった。復讐が遅れればそれだけ、父の命令に背いているという罪が重くなると、ハムレットは感じていた。それでも、現王を殺害するという計画は、王のまわりを常に護衛が取り巻いていたから、容易なものではなかった。さらに、その計画が容易だったとしても、ハムレットの実の母である王妃がいつも王の傍らにいたから、その存在がハムレットに対する抑止力として働き、実行をためらわせるのであった。その上、王位簒奪者がハムレットの母の夫であるという状況を思うと、ハムレットの良心は幾分うずき、矛先を鈍らせるのだった。単に人間を一人殺すという行為自体が、ハムレットにとって不愉快で恐ろしいものであった。彼は本来生まれつき優しい気質であったからだ。ハムレットが抱える非常なる憂鬱、そして、とても長いこと気持ちが落ち込んでいるという状態から、すっかり優柔不断になってしまい、最後の手段を使うことを躊躇していた。それに加えて、ハムレットは心の中でこう思わずにはいられなかった。俺が見たあの幽霊は果たして本当の父であったのだろうか、ひょっとすると悪魔ではないのだろうか、悪魔は何でも相手が望むものに変化《へんげ》すると聞く、そいつが俺の父の姿をまねて、俺の弱さと憂鬱とにつけこんで、殺人というとんでもない行為をさせようとそそのかしているんじゃないだろうか。そこでハムレットは、心の迷いとも思われる幻覚や亡霊などより、もっと確実な証拠をつかもうと決心した。
ハムレットがこのように計画の実行をためらっている頃、宮廷にはとある俳優たちがやってきた。ハムレットが以前楽しみにしていたものであり、中でもそのうちの一人が語る、トロイの老王プリアムの最後と、その女王であるヘキュバが抱える深い悲しみを謳《うた》った悲劇を聞くのがお気に入りであったのだ。ハムレットはなじみの俳優たちを歓迎した。そして、以前自分が気に入った話があったことを思い出し、もう一度やってくれるように俳優に頼んだ。すると俳優は、とても真に迫った感じに語りだした。年老いて弱った王を残酷に殺したこと、王の人民と都市とを炎で焼き払ったこと、老妃が深い悲しみのあまり気が狂ったこと、宮殿を裸足で右往左往していたこと、かつては王冠をかぶっていた頭にボロ切れ一枚巻いて、王服をまとっていた腰には、大急ぎで巻いた毛布一枚だけだったことなどを語って聞かせた。その語り口が、実際に見てきたかのように真に迫っていたから、居合わせた人がみな涙を流しただけでなく、俳優自身でさえも時折語りを本当の涙で止めてしまうほどであった。ここでハムレットは考えた。あの俳優が、自分が語る架空の作り話にあれだけ感動して、前に会ったこともないヘキュバ――なにしろ数百年前の人だ――のために涙を流せるのであれば、俺はなんて鈍い人間だったんだろう、真の王にして俺の父親を殺されたという情熱を駆り立てるにたるだけの真の動機・真のきっかけを持っていながら、ほとんど心が動くこともなく、復讐心がこれまでずっと、忘却の中でぼんやり眠っていたように思えるんだからな! そして、俳優や演劇や、真に迫った演技が観客に与える強力な効果について考え続け、やがて、舞台で演じられた殺人劇を見て、舞台という場所が持つ力と、類似の場面が演じられたということに心を動かされて、その場で自分が犯した罪を告白したという殺人者のことを思いだした。そしてハムレットは、俳優たちに、叔父の面前で父の殺害に似た場面を演じさせよう、それを見た叔父にどんな効果を及ぼすのか注意深く観察しよう、と決めた。そうすれば、叔父の表情から、彼が殺人者であるかどうか、もっと確実に推論できるだろうという思いからだった。このような理由から、ハムレットは俳優たちに芝居の用意をするように命じ、その席に現王と王妃とを招待した。
芝居の内容は、ウィーンでとある公爵に対して行われた殺人劇であった。公爵の名前はゴンザーゴといい、その妻はバプティスタといった。ルーシアーナスという公爵の親戚筋のものが、公爵の持ち物であった庭園において公爵を毒殺し、その後短い時間でゴンザーゴ夫人の愛を獲得した、一連の出来事を芝居にしたものであった。
この芝居が上演されたとき、王は自分に向けて仕掛けられた罠の存在を知らなかったから、王妃や廷臣たちとともに劇を見るべく席に着いた。ハムレットは王の表情を観察すべく、王のそばに席を占めた。芝居はゴンザーゴとその妻との会話から始まった。その会話の中で、夫人は幾度となく愛の誓いを口にし、自分は夫ゴンザーゴよりも長生きすることがあれば、決して他の夫を迎えはしないと語った。もし他の夫を迎えたならば呪われても構わないと言い、最初の夫をみずから殺すような姦婦でもなければ、そのようなことをする女性はいないと続けた。ハムレットは王である自分の叔父が顔色を変えたのを見て、王と王妃にとって、この会話がニガヨモギのように苦いものであることを見て取った。さらに芝居は進み、ルーシアーナスが庭園で眠っているゴンザーゴを毒殺する場面が上演されたとき、その芝居が、自分が兄である前王を庭園で毒殺するという邪悪な行為にとてもよく似ていたために、現王の良心を刺激し、芝居の残りを見続けることができなくなってしまった現王は、自分の部屋に明かりをつけるように命じ、急に気分が悪くなったと言って――幾分は本当のことだったろう――あたふたと劇場から出ていった。王が出ていったために、芝居は中止された。これを見たハムレットは、亡霊の言葉は真実であり、幻覚などではなかったことを確信するに至った。そして、大きな疑問や疑惑が突然解けた人によくやってくるうれしさから、ホレーシオに、あの亡霊の言葉には千ポンドの価値があったと言い放った。だが、叔父が父を葬り去ったことは確実に分かったものの、どうやってその復讐をやり遂げるか、それにはまだ解決の糸口が見つけられないでいた。すると突然、ハムレットは王妃である母親から、彼女のクローゼットがある私室にて個人的な話をしたい、と使いがやってきた。
王妃がハムレットを呼びだしたのは王の希望によるものであった。ハムレットの最近の言動が王と王妃にとってどれだけつらいものであるのかを息子に認識させようとしたのである。そして王は、この会談における会話をすべて知りたいと思い、また、母親からの短すぎる報告から、王が知っておくべき趣旨を含むようなハムレットの言葉が抜け落ちることがあるだろうと考えたから、老臣ポローニアスに、王妃のクローゼットにかかっているカーテンの後ろに隠れて、会談で交わされた内容をすべて聞いておくように命じた。この計略は、ポローニアスの性格にもぴったり合ったものだった。ポローニアスは宮廷の中で歪んだ処世術と政治力学の中を生き抜いてきたため、今回の計略のような不正直で狡猾な手段を使って情報を知ることを好んでいたからである。
ハムレットが母の所にやってきたので、王妃はハムレットの言動をとても激しく咎めだし、あなたは父親が気分を悪くするようなことをしたんですよ、と言った。ここで『父親』というのは、今王となっているハムレットの叔父のことであり、叔父が母親と結婚したことから、王妃は現王をハムレットの父親と呼んでいたのだ。ハムレットは大きな怒りを覚えた。何しろ、彼にとっては非常に大切で、敬意を持って扱われるべき『父親』という名称を、本当の父を殺した者に他ならぬ悪漢に与えられたからだ。そして、やや声を荒げて「母上、あなたは私の父をたいへん怒らせたのです。」と言い放った。王妃は、それは根拠のない言いがかりだと言った。「あなたの問いにふさわしい答えですよ。」とハムレットは返した。王妃は彼に、おまえは自分が誰にものをいっているか忘れてしまったのかいと尋ねた。ハムレットはこう返した。「あぁ! 忘れることができればどんなにいいことか! あなたは王妃です。そして、あなたの夫の弟の妻です。そして、私の母上です。そうでなければよかったのに。」それを聞くと王妃は「そうかい、もしそんなに私を馬鹿にするんなら、ちゃんとおまえと話せる人をここに呼んでこよう。」と言って、王かポローニアスを呼んでこようとした。だがハムレットは、せっかく母と二人だけで相対しているので、自分の言葉が王妃に過去の不埒な行いを自覚させることができるかどうかを試してみるまでは王妃をどこにも行かせたくなかったから、王妃の手首をつかみ、しっかりと捕まえ、椅子に座らせてしまった。王妃はハムレットが本気で気が狂ってしまったとびっくりしてしまい、狂気のあまり自分を傷つけてしまうのではないかと怖くなって、叫び声をあげた。するとカーテンの後ろから「助けよ、王妃を助けよ!」という声が聞こえてきた。ハムレットはその声を聞いて、すっかり王自身がそこに隠れているんだと思いこんでしまい、剣を抜き、まるでネズミでも刺すかのような感じで、声のしたあたりを突き刺した。やがて声が聞こえなくなり、ハムレットはこいつは間違いなく死んだなと思った。しかし、死体を引き出してみると、それは王ではなく、スパイとしてカーテンに隠れていた老臣ポローニアスであった。「おぉ!」王妃は叫んだ。「おまえは何と向こう見ずでむごいことをやってしまったのだ!」「確かにむごいことです、母上。」ハムレットは答えた。「ですが、あなたのやったことに比べれば大したことはありませんよ、王を殺し、その弟と結婚したんですからね。」ハムレットはあまりに度を超してしまったため、今更止めてしまうわけにはいかなかった。もう母にぶっちゃけてしまおうという気になっていたから、彼はそうした。曰く、両親の過去の過ちを子供は普通は優しく許すべきなんでしょう、ですが、それが大きな罪となるならば、子供だって自分の母親に少しはひどいことを言っても許されるはずです、そうすることが母親のためであるし、母を邪道な道から救うためになされ、単に非難するために言うんじゃないならそれでいいんです。さて、この有徳の王子は心が動くような言葉で話を続け、王子の父であり愛していた王を忘れて、ほんのちょっとしか時間が経っていないのに、父の弟であり、王を殺害したという評判があった者と結婚してしまった王妃の不貞を責めた。最初の夫と誓いを交わしたのにそんなことをするということは、女性が行うあらゆる誓言の真実性を疑わせるものだ、すべての美徳を偽善と思わせ、結婚の契りをばくち打ちのそれにまで陥れ、信仰を単なる贋物《フェイク》やら言葉の形式やらに堕落させるようなものだ、などと王妃に言った。そしてまた、あなたのしたことを見て、神々も恥ずかしく思っているし、現世の人々もうんざりするようなことをしてしまったんだ、とも言った。そしてハムレットは、王妃に二つの絵を見るように促した。ひとつは先王(王妃の最初の夫)の肖像画であり、もう一つは現王(王妃の二番目の夫)の肖像画であった。そして二つの絵の違いをこう陳述した。我が父の眉のなんという優美さ、まさしく神そのものでありましょう! アポロの巻き毛、ジュピターの額、マースの眼差し、そして天に届かんばかりの丘の上に舞い降りたばかりのマーキュリーさながらのその態度! この人が、母上の夫だったんですよ、と母に言った。そしてもう一つの絵を見せながらこう続けた。まったく葉枯れ病とかカビみたいな顔ですよ、なにしろこの人は健康そのものの兄上を枯らしてしまったんですからね。さて、王妃は王子のおかげで自分の心の痛い部分に目を向けさせられ、我が心がすっかり腹黒く醜いものであることに気づかされてしまったため、すっかり恥ずかしくなってしまった。さらにハムレットは言葉を続け、あなたはそれでもなお、自分が最初に結婚した夫を殺し、不正な手段で王位をかすめ取ったこの男と、生活をともにし、夫婦として生きていけるのですか、と尋ねた。そんなことをハムレットが話していたその時、ハムレットの父親の亡霊が、生きているときと変わらぬ姿、ハムレットが目撃した姿そのままに、王妃の部屋の中に入ってきた。ハムレットはすっかり恐ろしくなりながら、いったい何をしに来られたのかと亡霊に問いかけた。すると亡霊は、お前は我に復讐を約束した、だがお前がそれを忘れてしまっているようだから、そのことを思い出させるために来たのだと答えた。そして、お前の母に話しかけてやれ、そうしなければ、深い悲しみと恐怖のために、母親が死んでしまうからな、とハムレットに命じた。そして亡霊は姿を消した。さて、亡霊の姿はハムレットにしか見えなかった。ハムレットが亡霊の立っていたあたりを示し、いくら言葉を尽くしても、王妃に亡霊の存在を分からせることはできなかった。王妃はハムレットがずっと空中に向かって――王妃にはそうとしか見えなかった――話をしているのを見て、すっかり怖くなってしまった。王妃はハムレットが錯乱状態に陥ったんだと思った。だがハムレットは王妃に、父上の魂が再びこの地上に戻ってきたのを、私の狂気のせいにして、あなた自身の罪ではないかのように思いこんで、不道徳な魂をいたずらに慰めようとするのはやめてください、と頼んだ。そして王妃に自分の脈を取らせ、自分の脈は穏やかなものであって、狂った人のそれではないんだと語った。そして涙を流しながら王妃にこれまでのことを悔い改めて天に懺悔してください、それから、もうあんな王の仲間であることをやめて、妻として振る舞うことをおやめ下さいと乞うた。その後で、これからは我が父上との思い出を敬い、私に我が母としての態度をお示し下さい、そうしていただければ、私も息子として母上に神の祝福を願いましょうと言った。王妃が王子の訴えを守りましょうと約束し、この会見は終わった。
ここでハムレットはようやく、自分が軽率にも殺してしまったのは誰なんだろうと考える余裕を持った。死体に近づいてよく見ると、それはポローニアスであった。ハムレットがこよなく愛したかわいいオフィーリアの父であった。ハムレットは死体に近づき、気持ちも少し静まったので、自分がしたことを悔いて泣いた。
ポローニアスが不幸にも死んでしまったことは、現王にハムレットを国外追放とするための口実を与えた。王としてはハムレットが生きていることは危険だという懸念から、むしろ殺してしまいたかった。だが、ハムレットを愛する国民や、いろいろな欠点を持ちながらも息子ハムレット王子を溺愛する王妃がどう出るかが不安だったのである。そこで狡猾な王は、ハムレットがポローニアスの死について責任を問われないようにと、ハムレットの安全を確保するという理由を付けて、ハムレットに廷臣を二人つけて、イングランド行きの船に乗るようにさせた。そして廷臣には、イングランド宮廷(当時はデンマークに従属して貢ぎ物を送っていた)にあてた手紙を持たせた。手紙には、現王がでっち上げたある特別な理由から、ハムレットをイングランドに上陸し次第殺して欲しいと書いてあった。ハムレットはうすうすそのたくらみを疑っていたので、ある晩その手紙を手に入れ、彼自身の名前を巧妙に消してしまい、その跡に彼に付き従っていた二人の廷臣の名前を書き加え、彼らを殺してしまうような内容に細工をしておいた。そして再度手紙の封を閉めて、もとの場所に戻しておいた。まもなく、彼らが乗っていた船が海賊に襲われ、戦が始まった。ハムレットは戦のさなか、勇気を示すべく単身剣を携えて海賊の船に乗り移った。一方ハムレットが乗っていた船はというと、卑怯にもその場を離れていってしまった。ハムレットを運命の手にゆだねると、廷臣たちはイングランド目指して一生懸命船を進めた。だが彼らは、ハムレットの手によって彼らが当然受けるべき身の破滅を自分自身で被るよう書き換えられた手紙を持っていたのである。
王子を捕らえた海賊たちは、敵ながら紳士的な態度を示した。彼らは捕らえた囚人のことをよく知っていた。王子に親切にしておけば、やがて宮廷に帰ってから自分たちの行動に対する返礼として何かいいことをしてくれるだろうと期待し、ハムレットを一番近いデンマーク領の港まで送っていった。港に着くとハムレットは王に手紙を書いた。その中で彼は、まことに不思議な運命からまた故国に帰り着くこととなった次第を王に知らせ、また、翌日にみずから陛下の御前に参上いたしますと告げていた。そしてハムレットが宮廷に帰ったとき、彼の目に悲しい光景が真っ先に飛び込んできた。