さて、愛・地球博には質量ともにすごい数の企画がありました。あれだけわくわく出来る空間を演出しようと思えば、企画の数も必要ですし、異質なもの同士をかけ合わせることによる変質も必要です。そして、多種多様なものに素早く触れられる環境がないと、人が見る世界はやがて貧しくなってしまうように思います。
しかし、本は売れなくなっているし、それでも新しい本はどんどん出版されているし、古い作品はどんどん埋もれていってしまいます。それをただ埋もれるままにまかせてしまってはとても惜しいと思うのです。
昔から生き残ってきた古典や、もうすぐ消えそうな作品、すでに埋もれるにまかせていた所から偶然発掘出来た作品を読むことで、昔の人を友とし、昔見た世界を現在に再構築し、そして新しい世界を作り出すことができるのです。素晴らしい世界を味わい、悲劇的な結末を見て回避する方法を考えたり、現在抱える課題を解決するための先行事例を見つけたりすることができると、私は考えています。
著作権切れの文書をボランティアの活動で電子化し、「誰でも自由に使えますのでどうぞ使って下さい」と、12,000作品以上に及ぶ作品を公開し配布することで、青空文庫は昔の人と現在の人をつなぐ一つの方法を示しました。また、自由なテキストでどのようなことが出来るか、その具体例を示しました。
視覚障害者のための読み上げに使われたり、朗読素材として読まれたり、kindleやkoboやReaderといった電子書籍リーダーがサンプル的に青空文庫の公開作品を使用したり、電子書籍リーダーで簡単に読めるような作品集を有志が公開したり、用例集を集めてみるのに検索されたり、新たに見直すキッカケになったりして、自由に使えるテキストの可能性をいろいろ示してきました。
もうこれは社会インフラとして使われる領域に到ったといっていいでしょう。
また、富田さんを中心として、電子テキストを取り巻く環境の整備に対しても積極的な取り組みを行なってきました。そのおかげで、著作権保護期間延長の気運は静まり、今でも死後50年です。これが20年伸びて死後70年とされたら、2015年及び2016年に著作権保護期間が切れるはずだった作品がまた20年公開出来なくなってしまうのです。
これについてはTPPによって知的財産の規制が米国寄りに変更されてしまう可能性があるためまだまだ道半ばです。まだまだ戦っていかなければいけないのです。
青空文庫が5万作品公開出来たころには、私がほんとに夢みた「昔の人と友になること」が実現出来るようになると思うので、青空文庫の活動を今後も後押しするために、電子テキストの入力・公開をまた頑張っていくこととします。具体的には、私が公開していきたいジャンルである「探偵小説」にまつわるテキストを中心に、青空文庫にあまり入っていない作家の作品を入力していきたいな、と思います。
2013.9.29