シラミちゃんとノミちゃん グリム兄弟 Bruder Grimm 矢崎源九郎訳 ------------------------------------------------------- 【テキスト中に現れる記号について】 《》:ルビ (例)泣《な》きだしました。 [#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定 (例)[#ここから4字下げ] -------------------------------------------------------  シラミちゃんとノミちゃんが、いっしょにくらしていました。あるとき、ふたりはたまごのからのなかにビールをつくりました。ところが、シラミちゃんがそのなかへおっこちて、やけどをしました。それを見て、ノミちゃんがかなしがって、わあわあ泣《な》きだしました。  すると、おへやの小さな扉《とびら》がいいました。 「ノミちゃん、どうしてわあわあ泣くの。」 「だって、シラミちゃんがやけどしたんですもの。」  すると、おへやの扉はキイキイなりだしました。それをきいて、すみっこにいたほうきが、 「扉《とびら》さん、どうしてキイキイなるの。」 と、いいました。 「キイキイならずにいられるもんですか。 [#ここから4字下げ] シラミちゃんがやけどして ノミちゃんが泣く。」 [#ここで字下げ終わり]  するとほうきは、ものすごいいきおいで、そこらじゅうをはきはじめました。そこへ小さな車がとおりかかって、 「ほうきさん、どうしてそんなにはくの。」 と、いいました。 「はかずにいられるものか。 [#ここから4字下げ] シラミちゃんがやけどして ノミちゃんが泣《な》く 扉《とびら》ちゃんがキイキイなる。」 [#ここで字下げ終わり]  すると車は、 「それじゃ、わたしもかけだそう。」 と、いって、すさまじいいきおいでかけだしました。  車がこやし[#「こやし」に傍点]の山のそばを走りぬけますと、こやしが、 「車さん、どうしてそんなにかけるの。」 と、いいました。 「かけずにいられるものかね。 [#ここから4字下げ] シラミちゃんがやけどして ノミちゃんが泣《な》く 扉《とびら》ちゃんがキイキイなる ほうきちゃんがはく。」 [#ここで字下げ終わり]  するとこやしは、 「それじゃ、おれもどんどんもえてやろう。」 と、いって、ほんとうに、明るいほのおをあげてもえはじめました。  こやしのそばに、一本の小さな木がはえていましたが、その木が、 「こやしさん、どうしてそんなにもえるの。」 と、いいました。 「もえずにいられるもんか。 [#ここから4字下げ] シラミちゃんがやけどして ノミちゃんが泣《な》く 扉《とびら》ちゃんがキイキイなる ほうきちゃんがはく 車ちゃんがかける。」 [#ここで字下げ終わり]  すると、小さな木は、 「それなら、わたしもぶるぶるゆれよう。」 と、いいました。そして、ほんとうにぶるぶるゆれはじめましたので、葉という葉がのこらずおちてしまいました。  ひとりの女の子が小さな水がめをもってやってきましたが、それを見て、 「木さん、どうしてそんなにふるえるの。」 と、いいました。 「ふるえずにいられるものですか。 [#ここから4字下げ] シラミちゃんがやけどして ノミちゃんが泣《な》く 扉《とびら》ちゃんがキイキイなる ほうきちゃんがはく 車ちゃんがかける こやしちゃんがもえる。」 [#ここで字下げ終わり]  すると女の子は、 「それなら、あたしも水がめをこわしてしまうわ。」 と、いって、ほんとうに水がめをこわしてしまいました。  それを見て、水のわきでている小さな泉《いずみ》が、 「むすめさん、どうして水がめをこわしてしまうの。」 と、いいました。 「水がめをこわさずにいられるものですか。 [#ここから4字下げ] シラミちゃんがやけどして ノミちゃんが泣《な》く 扉《とびら》ちゃんがキイキイなる ほうきちゃんがはく 車ちゃんがかける こやしちゃんがもえる 木ちゃんがふるえる。」 [#ここで字下げ終わり] 「ああ、そう。」 と、泉《いずみ》がいいました。 「それなら、わたしもながれだそう。」  こういって、泉はおそろしいいきおいでながれだしました。それで、女の子も、木も、こやしも、車も、ほうきも、扉《とびら》も、ノミも、シラミも、みんないっしょに水につかって、おぼれて死《し》んでしまいました。 底本:「グリム童話集(1)」偕成社文庫、偕成社    1980(昭和55)年6月1刷    2009(平成21)年6月49刷 入力:sogo 校正: YYYY年MM月DD日作成 青空文庫作成ファイル: このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。