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ロミオとジュリエット

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朝早く、パリスが花嫁の目を覚まそうと、音楽隊をひきつれてやってくると、そこには生きているジュリエットは存在せず、寝室には命なきむくろがあるだけという、恐ろしい情景を見せていた。

パリスの希望は今やついえてしまった。邸全体がすざましい困惑に包まれてしまった。かわいそうなパリスは花嫁の死を惜しんだ。この世で一番憎むべき死によって、パリスは花嫁を奪われたのだ。まだその手は結ばれもしないのに、パリスから離れていってしまったのだ。

しかし、それにもまして気の毒なのは、キャピュレット公夫妻が悲しんでいることであった。夫妻にとってジュリエットはただひとりの子どもであった。ふたりが共に喜びと慰めの元としていた、たったひとりのふびんな愛《いと》し子であったのに、無慈悲なる死によって、この世から奪い取られてしまったのだ。慎重な両親が、先々見込みのある良縁によって、ジュリエットが世に出てゆく(こう2人は考えていた)のを見ようとしていた、まさにそのときに死んでしまったのだ。祝宴のためにと用意されたものは、すべて用途が変更され、暗い葬儀のために使われることとなった。婚礼のごちそうは悲しい埋葬の宴に使われた。婚礼の賛歌は陰気な葬送歌へと変更された。陽気な楽器はもの悲しい鐘となった。花嫁が通る道にまかれるはずだった花は、その亡骸にまくものとなった。彼女を結婚させる司祭の変わりに、埋葬する司祭が必要だった。ジュリエットは確かに教会へと運ばれていったのだけれど、それは生ける者たちの楽しい希望を増すためではなくて、みじめな死人を増やすためであった。

悪い知らせというものは、いつもよい知らせよりも早く伝わるものである。ロミオの元に、ジュリエットが死んだという暗いニュースが運ばれてきたのだが、それはロレンスがよこした使いのものが来る前のことであったのだ。ロレンスはロミオに、ジュリエットの葬式は偽装したもので、その死は演出された影にすぎぬこと、ロミオの愛する娘は、ほんの少しの時間墓の中に横たわっていて、ロミオがそのような寂しい場所から彼女を救出しにやってくるのを待っているのだということを知らせるはずだったのだ。

その知らせが来るまで、ロミオは常になく愉快な気分で浮かれていた。その夜、ロミオは夢を見たのだが、その内容はというと、自分が死んでいて(死者に考えることができるとは妙な夢といえる)、それを恋人がやってきて発見し、自分に接吻して命を吹き込むと、彼はよみがえり、皇帝となったのだ。さて、使者がヴェロナから来たので、ロミオはてっきり、夢が知らせた吉報が実現したと思いこんだ。ところが、ロミオを喜ばせた夢は逆夢となってしまい、恋人が本当に死んでしまって、どんな接吻をもってしてもよみがえらせることはできないのだと告げられたのだ。

ロミオは馬のしたくをさせた。夜になったらヴェロナにいって、墓に入っている恋人を一目見ようと決心したのだ。悪い考えは、絶望した人の中にいち早く忍び入るものであるが、ロミオはある貧しい薬屋のことを思いだした。マンテュアにあるその店の前を最近通りかかったのだが、飢えた乞食のような主人の表情、きたない棚の上に空き箱が並べてあるというみじめな有様そのほか極度に貧窮していることを示す様子を見て、そのときロミオはこう言ったのだった(たぶん、自分の不幸な人生が、そのような絶望的な終わりを迎えることになるのではないかと不安を抱いたのだろう)。「もし毒薬を必要とすることになったら、マンテュアの法律では毒薬販売は死刑になるのだが、この貧しいやつならばきっと売ってくれるだろう。」

今やこの言葉が改めて彼の心によみがえってきた。ロミオはその薬屋を捜し出した。ロミオが金を差し出すと、薬屋は一応ためらうふうを見せはしたが、貧しいがゆえに拒むことができず、ロミオに毒薬を売ったのだった。その毒薬を飲めば、たとえ20人力を持っていても、たちまちあの世行きだろう、と薬屋は言った。

この毒薬を持って、ロミオはヴェロナ目指して旅立った。墓の中にいる、愛しい人を一目見て、死んだということを納得した上で、毒薬を飲んで、彼女のそばに埋葬されようと考えたのだった。

ロミオは真夜中にヴェロナへ着いた。そして墓地を見つけた。その中央に、キャピュレット家の先祖代々の墓があった。ロミオは明かりとくわとかなてこを用意し、墓をこじ開けようと作業をはじめた。そのとき、「悪党モンタギュー」と呼ぶ声がし、その背徳行為をやめろと言われたのだった。

それは若いパリス伯の声だった。パリスは時はずれの夜中にジュリエットの墓にやってきて、わが花嫁となるはずだった人の墓に花をまき、嘆こうとしたのだった。パリス伯にはロミオが死人に対してどんな関係があるのか分からなかった。ただ、ロミオがモンタギュー家の人であることは知っていたので、(彼の想像では)キャピュレット家にとって許すべからざる敵ということになっていた。パリス伯は、ロミオが夜にまぎれてここに来たのを、死体に下劣な凌辱《りょうじょく》を加えようとしているのだと思いこんでしまった。それゆえ、怒ってやめろと命じたのである。

ロミオはヴェロナの城壁内で発見されれば死刑となるべき罪人だったから、パリス伯はロミオを逮捕するつもりだった。ロミオはパリスに手出しをするなと言い、そこに埋められているティバルトの最後を見たまえと警告し、自分を怒らせないでくれ、あなたを殺すことで、再び我が身に罪を招くようなことはしたくないのだ、と言った。しかし、伯爵は軽蔑を持って警告を無視し、重罪人としてロミオに手をかけた。ロミオは抵抗し、格闘となった。パリスは倒れた。

ロミオは燈火をたよりに、自分が殺した相手が誰なのかを見に来た。その人はパリスであり、(マンテュアから来る途中で知ったのだが)ジュリエットと結婚するはずだった人と知り、その死んだ青年の手を取って、不幸にも道連れとなった人として、今彼がひらいた勝利の墓、すなわちジュリエットの墓に埋葬してやろう、と言った。

墓の中にはロミオの愛しい人が横たわっていた。死すらこの並びなき美しさを形成する目鼻立ちや容姿を変化させ得なかった人のようであったし、死に神がジュリエットを慕って、なぐさみのためにそこへ置いているように見えた。なぜそう見えたかというと、ジュリエットの体はまだ生き生きとして花のようだったからだ。これは、ジュリエットが麻酔剤を飲んだときには眠りに落ちていたからである。

ジュリエットの傍らに、ティバルトの血に染まった経かたびらを着た遺体があった。ロミオはそれを見て、死体に許しを乞い、ジュリエットへの愛から彼を“いとこ”と呼び、君の敵だった自分を殺すことで、君のために尽くすつもりだ、と言った。

そうしておいて、ロミオは愛人の唇に接吻して、最後の別れを告げた。それから、うみつかれた肉体から、不運の星がロミオに背負わせた重荷を振り落とした。つまり、薬屋が彼に売った毒を飲んだのだ。その毒の効き目は、確実に人を死に追いやるものであった。ジュリエットが飲んだ偽装薬とは違っていたのだ。その薬の効果は今やさめかかっており、ジュリエットは目覚めようとしていた。ロミオが約束を守らなかったとか、来るのが早すぎたとか、そういったたぐいのことを言おうとしていた。

というのは、修道士がジュリエットに約束した、覚醒の時間が来ていたのだ。そして、修道士は、彼がマンテュアに送った手紙が、使いの者が不運にも足止めされたために、ロミオに届かなかったことを知ったので、つるはしと提灯を持って、自分の手でジュリエットを死の場所から救い出そうとやってきた。ところが、びっくりしたことに、キャピュレット家の墓の内部で、すでに灯がついているのを見つけたのだ。それに、あたりには刀や血潮が飛んでおり、ロミオとパリスが墓のそばで息絶えていたのだ。

どうしてこんな惨事が起こったのかを推測する暇もないうちに、ジュリエットは昏睡状態から目覚めた。そばに修道士がいるのを見て、ジュリエットは自分がどこにいるのか、そしてなぜそこにいるのかを思いだし、ロミオがどこにいるのかを尋ねた。しかし、修道士は人の声を聞いたので、そのような死と不自然な眠りの場所からでてきなさい、私たちが逆らえない偉大なる力が、私たちの企てをくじいてしまったのだ、と言った。そして、人の声が近づいてきたのにおびえて、修道士は逃げてしまった。一方ジュリエットは、自分が真実愛した人の手に握られている杯を見て、毒薬によってロミオが最期を遂げたと判断した。もし少しでも毒薬が残っていたら、ジュリエットはそれを飲んでしまっただろう。ジュリエットはまだ暖かいロミオの唇に接吻した。まだ毒がそこに付いているか試したのだ。人の声がますます近づいてくるのを聞いて、ジュリエットは急いで、持っていた短剣のさやを払い、自分の身を刺し、誠実なロミオのそばで死んだ。

夜警はもうすぐそこまで来ていた。パリス伯の侍童が、パリスとロミオが格闘していたのを目撃しており、それを夜警に伝えた。そのことが市民たちにも伝わってきて、ヴェロナの町中が上を下への大混乱に巻き込まれた。市民にはいいかげんな噂が伝わっていたので、「パリスという人!」「ロミオという人!」「ジュリエットとか!」などとでたらめに叫び回っていた。その騒ぎがモンタギュー卿やキャピュレット卿、さらには公爵にまで伝わり、何事が起こったのか取り調べが始まった。

あの修道士は墓地からでてきたところを夜警に捕まっていた。彼はふるえながら、ため息をつき、涙を流していた、つまり、挙動不審な様子をしていたのだ。

群衆がキャピュレット家の墓の前に集まってきた。公爵は修道士に、このような奇妙な惨事について知っていることを述べよと命じた。

修道士は、モンタギュー・キャピュレット両老公の前に進み出た。そして神妙な態度で陳述をはじめた。「両家の子どもたちが命がけで恋をしていました。私は2人が結婚する手引きをしました。それによって両家がずっと抱いていた互いへの恨みを終わらせたかったからです。そこに死んでいるロミオはジュリエットの夫であり、ジュリエットはロミオの忠実な妻でありました。2人の結婚を公にする機会がなく、そのうちに、ジュリエットのために別の縁組みが計画されました。ジュリエットは、重婚の罪を避けようとして、眠り薬を飲んだのです(これは私が勧めました)。みんな、彼女は死んだと思いこみました。その間に、私はロミオに、ヴェロナに帰ってきて、薬の効力が終わるころにジュリエットを連れていきなさい、と手紙を書きました。しかし不幸なことに、使いの者がロミオに手紙を届けられなかったのです。」

これ以上は、修道士は陳述を続けられなかった。また、彼自身がここに来たのはジュリエットを救い出そうとしたためにすぎず、また、パリス伯とロミオが殺されているのを見つけた、ということ以外には何も知らなかった。

報告の残りは、パリスとロミオが戦っているのを見た侍童の陳述と、ヴェロナ追放以来ロミオに付き従ってきた従者によって補われた。従者は、あの忠実な愛人から、自分が死んだら父に渡してくれと託された手紙を持っていた。その内容は、修道士の言葉を裏書きするものであった。ロミオはその中で、ジュリエットと結婚したことを告白し、そのことを両親が許してくれるようにお願いしていた。貧しい薬屋から毒薬を買ったこと、墓地に行って、死んでジュリエットと共に永眠したいという意向がしたためてあった。

これらの事情はすべてつじつまが合っていた。修道士がこの複雑な殺人事件には何ら関わっていないことが明らかになった。この事件は、修道士がよかれと思って人為的で小器用な計画をめぐらした結果、意図せずして起こってしまったにすぎなかったのである。

そこで公爵は、モンタギュー・キャピュレット両老公の方へ向きなおり、彼らが野蛮かつ不合理な敵意を互いに持っていたことを責め、天がそれを罰したもうたのだ、そなたたちの不自然な憎悪を罰するために、そなたたちの子どもの恋愛でさえも使われたのだぞ、とさとした。

長いこと争いあってきた2人の老公は、もう仇敵ではなくなった。昔のことは子どもたちの墓に埋めてしまおう、ということになったのだ。キャピュレット卿は、モンタギュー卿に対して“兄弟”と呼びかけ、その手を与えてほしいと言った。若い2人の結婚を持って、これから仲良くしていこう、と申し出ているみたいだった。そして、(和解のしるしとして)モンタギュー卿の手を頂ければ、娘の寡婦産[#注1]として欲しいものは他にないのだ、と言ったのである。しかし、モンタギュー卿はもっとたくさんさしあげましょうと申し出た。ジュリエットのために純金の像を建ててあげたいのです、ヴェロナの町が続くかぎり、その立派さ、その出来映えを尊ばれる像として、まことの貞節を示したジュリエットの像以外にはありませんからな、ということだった。キャピュレット卿は、ロミオのために別の像を建てよう、と言った。

こうして、2人のかわいそうな老公たちは、万事手遅れになってしまったのち、相手に好意を持っているのだということを示し始めたのだ。過去において、両家があまりに激しく怒り、憎んできたのであるから、2人の子ども(両家の争いと不和の哀れな犠牲者となった)が恐るべき最後をとげなければ、この名家同士の憎悪と嫉妬《しっと》を取り除くことができなかったのである。

原作:ROMEO AND JULIET(TALES FROM SHAKESPEARE)
原作者:Charles Lamb

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この版権表示を残すかぎりにおいて、商業利用を含む複製・再配布が自由に認められる。プロジェクト杉田玄白正式参加テキスト。

翻訳履歴:2000年10月23日,翻訳初アップ。
2000年11月12日,竹内さんの指摘を反映。正式版へ。
2001年1月7日,katoktさんの指摘を反映。
2001年2月4日,若干修正。
2001年2月19日、yomoyomoさんの指摘を反映。
2006年8月6日、誤植を発見したので改訂。

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